事業仕分けの見直しを要望,民主党に意見を送付

先日の事業仕分けについて,Twitter界隈を中心に意見が多く集まっています.
特に#shiwake3は目覚ましいものがあります.
現在,こうした仕分けの意見から派生し,日本における科学技術のあり方について考える
#f_o_sという議論のチャンネルが開設されました.

しかしながらTwitterでつぶやくことはローカルで愚痴るよりはずっと声が届きやすいものの,
直接的なインパクトに欠けるのも事実です.
声となって届くのか,どこまでのインパクトがあるのかは分かりませんが
民主党本部に以下の意見を提出しました.民主党意見募集窓口
一人一人の意見はもちろん大切ですが,数としてのインパクトも重要だと考えます.
この問題を重要だと思われた方は,何かしら民主党の窓口にポストして頂きたいところです.<<< ここから

先日行われた事業仕分けについての意見を送付させて頂きます.

事業仕分けでは,これまでクローズであった政治決定プロセスが
オープンにされたことは評価されるべきことだと思います.
政治側がオープンになった以上,税金を頂いて業務を遂行している
研究者もオープンにすることが求められることは然るべきという意見にも
賛成しております.

私は業務の関係上,仕分け1と3の議論を切り替えながらストリーミング
視聴しておりました.天下りや不透明な団体資金に切り込み,
無駄遣いを改める動きは一国民として賛成します.
しかしながら仕分けにおける民主党側の研究者や科学研究への誤解,
博士やポスドクに対する認識の間違い,不十分な議論時間,
食い違う論旨などが数多く見られました.
これらを踏まえ,仕分け手法,並びに結果の見直しを要望したく意見書を提出させて頂きます.

事業仕分け

事前に調査した上での仕分けという説明だったが,
議場では「私は未来館には行ったことが無いのですが」という言葉が
発せられていました.省庁側との議論の食い違いも含め,準備不足なのではないかと言う印象が拭いきれません.
以下にそれぞれの項目について述べさせて頂きます.

事業仕分けの進行

ごく短時間の中で次々に議題を消化する様を中継するということは,
非常に大変だったものと思います.
しかし内容としては仕分け人と省庁側で食い違いが多く,非常にロスが大きく,
食い違った結果,縮減,あるいは廃止されたのではないかと思われるものが
多々見受けられました.
省庁側のプレゼンテーション力,ディベート力の問題はあるかも知れませんが
弁護人やそれに類する発言が一切無く,議論として成立し,
適切な仕分けがなされたのかは甚だ疑問です.
さながら時代劇の中の裁きであり,民主的なやり方では無いと考えます.

現場の不在

事業仕分け3において注目が集まったものに,未来科学館毛利館長による
プレゼンテーションがありました.仕分け人側からも「ようやく議論できる」と
称賛の声が上がりました.
多くの事業において省庁側からの説明者のみが参加していましたが,
毛利館長のプレゼンテーション力の高さもさることながら,
現場の声としての毛利館長だったからこそできた質疑応答だと考えます.

研究の委託について,民間の委託とは大きく異なる流れがあります.
民間企業においての委託は仕様,あるいは設計というものは多くの場合において
発注者が作成します.しかしながら現在の研究事業では,テーマや課題に沿った
アプローチは研究機関や研究者が考えるものが多々存在します.
具体的にはテーマや課題を公募し,それに乗っ取ったアプローチを研究機関が提出し,
選定,委託されるという流れのものです.委託された研究は定期的な
説明会や評定を経てテーマに合致しているかどうかなどが審議されます.

このような研究の流れがある中,当事者不在では質疑に答えられないような場合もあり,
現場の状況を理解されないまま仕分けされてしまったものもあると考えます.
八ッ場ダムと同様,現場の人間との対話を行う必要があるのではありませんか.

基礎研究

現在,研究の現場において一般への広報活動というのは研究活動の一環として
行わなければならないという風潮が起きています.
具体的には説明会においての評定項目として,従来の論文投稿や標準化数に加え,
マスコミへの取り上げや,社内外の展示会への出展といったものが対象とされています.
税金を利用している以上,説明責任はあると思いますし,
こうした動きはますます広がっていく必要があると感じています.

しかし基礎研究というものは往々にして非常に地味なものです.
むしろスパコンなどは派手な部類です.
加えて基礎研究は積み重ね,あるいは複合してようやく人の目に触れる
大きさになるものなのです.
事業仕分け,特に3では委託している事業に対し,その即効性と
国民へのダイレクトな反映が求められていましたが,それ単体のインパクトが
小さいからと言ってやらなくて良いようなものではありません.
時間を掛けて説明すれば理解して頂けるようなものかも知れませんし,
その難しさを理解していただくことはできないようなものかも知れません.
少なくとも,1事業1時間で理解できないから不要,と言えるものではありません.

また,事業仕分け3では「ノーベル賞を取れるのかどうか」という議論に終始している
ものがありました.一般の方へ理解して頂けるものの指標として
ワイドショーにも取り上げられるノーベル賞というものがありますが,
すべての研究がノーベル賞を取れるわけではないことを知っておいて頂きたいです.

私はインターネットにおけるストリーミング放送を研究しておりますが,
事業仕分けに用いられた生中継のシステムにしても,
映像の圧縮,音声の圧縮,転送手法,多人数接続時の転送効率改善手法,
負荷分散といった技術に何人もの研究者が関わってきました.
そのシステムを運用していたサーバシステム,あるいは各視聴者が
見ていたPC,あるいは撮影していたカメラ.これらの機材に
何万の基礎研究から構成されているのです.
逆に申しますと,もっと多くの視聴者や,サービスの高品質化,安定性の確保には
さらに研究を積み重ね,改善していく必要があるのです.

加えて官に頼らず民間で研究すべき,という話題が登場していました.
数年前は産官学協同が華やかでしたが,長期に渡る不況により
産はさしあたって売れるものしか作る予算が出ず,
将来の基礎研究への投資というものが難しくなっております.
私自身,数年前までは某大手家電メーカーとの共同研究を行っておりましたが,
いずれも不況を理由に現在までの関係には至っておりません.
かと言って積み重ねることが重要な基礎研究を,誰もしなくて良いというのは
間違っており,何か新しいものを生み出すための積み重ねとして必要かどうかという
議論をするべきと考えます.

外国人研究者招聘と博士,ポスドク

外国人研究者の招聘について,賃金が安価であっても
「研究の質が高ければ外国人研究者は自然に集まる」という発言がありました.
この発言についてですが,一般的な方が条件の良い会社に転職するように,
条件が悪いにも関わらず集まる人がどれほど居るでしょうか.
仮に賃金が安価であっても,研究環境に惹かれて選択するケースはあると思います.
その研究環境の指標として,マスコミにも取り上げられる世界の大学ランキングが
あります.
今大学では国際的な競争力を高めるために,この大学ランキングを非常に
気にかけています.そしてこのランキング,もちろん各ランキングによって
評価基準は違いますが,教員数,博士の数,論文数,論文被参照数と言ったものが
大きく関わってくるのです.
これらを支えているものにが先の仕分けで対象となった博士であり,
ポスドクがあります.秀でた研究を行うための投資として必要な要素として
何が必要で,何が不要なのか,こうした現場の実情を踏まえて
判断頂きたいと思います.

最後に

政治決定プロセスを広く公開することによって,
政治決定に至る議論をオープンにすることによる動きは素晴らしいと思います.

しかしながら予算構築にあたり,時間的な問題があったにせよ,前提条件の相違,
食い違う議論,現場不在の仕分けには甚だ疑問を感じます.

財政難の中,何を削り,何を活かすかという選択は非常に難しいとは思いますが,
仕分けの再考を要望します.

ここまで >>>