日本におけるTwitter利用者増加の課題は若年層にあり

Twitterにおける利用者数について述べられた記事として,5月27日Twitter、日本のユーザー伸び率好調も利用時間は米・英より短いがあります.この記事に寄りますと日本におけるTwitterの利用者数は52万人.男女比は男性が75%ということでした.私の感覚では5月末にnagano_haruさんがTwitterを楽しむ10の方法(初心者ver)を書かれた頃から新規登録者らしき人たちのフォローや参加が増えたように感じますので,若干の変化は発生しているかも知れません.

今朝方,Twitterにおける男女比について話が盛り上がっていました.TwitterはIT業界の人の登録が多い,IT業界には女性が少ないから男女比もこのようになっているのでは?という話になっていました.数日前にはTwitter上でコアなユーザーとされる人たちは「mixiTwitterTumblrとearly adaptersは移っていくんだよ」とも話していました.では本当にTwitterはそこまで流行るのか,私なりに考えてみました.

Twitterの利用者像

Twitterを眺めてみて感じるのはやはりIT業界の人が多いということです.特にWEBサービスやWEBデザイン系の人が多い印象です.年齢層は20代後半以上,男女比はニュース通りの感覚です.Twitterは草の根でフォロワーが広がっているので私の実感とはずれている人が居る可能性は十分に考えられますが,少なくともmixi前略プロフのようなサービスに比べ,高校生,大学生と言った若年層の参加が少ないと思います.

アメリカの場合,Pew Internet & American Life Projectが2008年12月に行った調査,Twitter and status updatingによると18-24歳のアクセスが19%,25歳から34歳が20%,35歳から44歳が10%,45歳から54歳が5%を締めている,と発表されています.PDFで配布されているレポートによるとユーザーの中央値は31歳である,とされています.同様に報告されているMySpaceが27歳,Facebookが26歳ということなので,やや年齢層の高いユーザーが見えてきます.日本のTwitterユーザー分布も知りたいところです.

Twitterを大学生に勧めてみて

昨年,私が商業系大学で非常勤講師先をしていた授業,これは情報処理の基礎科目だったのですがTwitterをはじめ,様々なWEBサービスを大学一年生に利用させてみました.その結果,特にTwitterは一部を除いてさっぱりウケない,というものでした.この大学だけでなく,私が普段活動している大学でも,学生に勧めてみるものの,一部を除いてあまりノってこないという現状を感じます.

最近の大学生についての分析

4月なのでほぼ高校生と言い換えても差し支えのない頃合いでしょう.彼らを情報処理の授業担当者の視点から見た場合,大きく二極化することに驚きます.高校で「情報」の授業が展開されているとは言え,多くの高校において十分な知識を持った授業担当者が居ない,進学校では軽視されることなどから,パソコンが使える学生と使えない学生に差が出来ています.ほぼ全員が遅いながらもタイピングができる当たりに「情報」授業の成果を感じます.できる学生というのはもちろんしっかりと「情報」授業を受けてきた学生・・・は少数派で普段からパソコンやインターネットに親しんだ学生が多く,放っておいてもニコニコ動画YouTubeを見たりしています.

現在の大学1年生はIT革命,常時接続の普及が始まった2000年には10歳とかですから「物心ついた頃には常時接続」世代です.一方でコミュニケーションツールとしてパソコンを使っていた人は少数です.一方,i-modeのサービスインが1999年2月なので「物心ついた頃には携帯電話」世代とも言えます.2008年4月に日本青少年研究所が発表している高校生の消費に関する調査によると高校生の携帯電話所持率は96.5%なのに対し,パソコンは21%に留まっていることが分かります.まだ高校の段階では普段から自由に使えるパソコンを持っているような家庭は少なく,友達とのコミュニケーションにはもっぱら携帯電話が使われているようです.ここではこうした時代の高校生,大学生を「携帯電話世代」と呼びます.

大学生,もとい携帯電話世代にTwitterを勧める難しさ

携帯電話世代の携帯電話の使いこなし方は,私のような昭和人間には驚きのものがあります.まずパソコンのキーボードより携帯のテンキーの方が入力が早い.用事があるときは携帯メール.携帯電話では基本的に送信元は携帯電話の機能で住所録を基に表示されますから,PC・携帯問わず基本的にメールの文面では名乗らない.サブジェクトも滅多に書かない.課題を出すとメモはせず,その場で携帯カメラで撮る.写真をメールして,と課題を出すとメールボックスの容量を考慮して添付ではなく携帯電話専用ファイル転送サービスを使う.

これらが良いか悪いかは別の問題として,彼らには彼らなりの使いこなしがあり,携帯電話に特化したコミュニケーションスタイルが広がっている印象です.

そんなにコミュニケーションが好きならばTwitterは受けるだろう,と思っていたことが僕にもありました・・・
いくつか感じた事象を以下に纏めてみます.

IDでやり取りする文化への抵抗

ID.ここでは便宜上個人を識別するためのアルファベット・数字の組み合わせによる文字列と定義します.

携帯電話の場合,コミュニケーションの手段としてメール,前略プロフが挙げられます.メールであればコミュニケーションしたい相手とメールアドレスを交換し,携帯電話に登録することで,あとは携帯電話上で自分自身が付けた本名やニックネームをベースとしたコミュニケーションが可能となります.
前略プロフの場合,名刺代わりに自分のIDを交換し,そのIDにアクセスすることで自己紹介や掲示板,日記や写真が見られるというものです.これもIDは最初の一度の交換のみで,あとは携帯電話のブックマーク機能を使えばIDに触れる機会はありません.

このように携帯電話世代に取って,アルファベットと数字の組み合わせによるIDをやり取りする機会は多いように見えて,ユーザー自身が接するのは実は一瞬です.一方のTwitterは基本的にIDが延々と表示され,返信を付ける際は@xxxxのようにIDベースでコミュニケーションが構成されます.このIDによるコミュニケーションは携帯電話世代に言わせると「気持ちが悪い」「ヲタクっぽい」と感じるようです.逆にパソコンゲームで慣れている人たちやWEBサービスでIDによるコミュニケーションを日常的に行う人たちには抵抗が無いようです.

Twitter用語が日本語から遠い

Twitterのみで用いられるコマンド,インターフェースに登場する言葉をここではTwitter用語と呼びます.

IDに続きTwitter用語が馴染みにくいようです.
Twitter用語と言うと,基本的には「トゥイット/つぶやく」「フォローする」「フォローされる」「ふぁぼったー」「RT」などが挙げられます.IDでも触れたように「気持ちが悪い」「ヲタクっぽい」と嫌悪感を示すようです.

mixiで利用される象徴的な用語に「マイミク」というのがあります.よくよく考えてみると若い人の間で流行る略語や用語は,日本語派生であったり,殆ど日本語になった英語,つまりはカタカナ語から派生したものが多いことが分かります.カタカナ語である「マイ」と「ミクシィ」を繋げて「マイミク」.初めて聞いても何となく想像が付きます.

しかしTwitterになると難しい.そもそもTweetからして馴染みが無いようです.受験英語,少なくともセンターレベルでは出てないかも知れませんね.更にRTがReTweetは厳しい.英語圏では自然な略称も「KY」を「空気読めない」にしてしまう日本語圏での浸透は難しいものです.

もっと言うと「つぶやき」という日本語自体,滅多に使わないと思いますがどうでしょう?個人的には「つぶやきシロー」以来,久しぶりに「つぶやく」という言葉を聞いたような気さえしました.実際,授業では「つぶやけって言われてもねぇ.」いう声が多かったです.「独り言」とかならまだ自然かも知れません.ちょっと危ない感じもしますがイメージはしやすいかと.

つまりこの項目で私が言いたいことは,よく使う日本語を基にした用語でないと受け入れられにくい,ということです.その点,一度受け入れられてしまえば「tsudaる」は実に日本語的なので好印象だと思います.

コミュニケーションの範囲として,既に既存サービスで満足している

これは世代に限定せず,全般に言えることだと思いますが,一度その環境に満足してしまうと,容易に移りたくないものです.その場所で構築した友人関係,コミュニケーション,知名度,データ,システムへの慣れなども容易に放棄は出来ないものです.

WEBサービス百花繚乱の現在,プロフも更新してmixiも更新して,モバゲーも触って・・・そうでなくても携帯電話メールに忙しい携帯電話世代にとって,既に友達が存在しているサービス上でのコミュニケーションに忙しい状態で,新規に別サービスに手を出すのには抵抗やコスト意識があるように見えます.

安全圏が見えないサービスは不安

こちらも学生に限らないものです.

コミュニケーションにはレベルがあると私は考えます.まず1番目は対面で知っている人との繋がりです.2番目は対面では会ったことがないけれども思想・仕事・趣味などの共通項があり,共感することがあり,身近に感じられる人との繋がり.3番目は特に共通項は無いけれども用いる言語が辛うじて同じ,というものです.

実際,mixiなどのWEBサービスであれば1番目と2番目で繋がることが普通でしょう.オンラインゲームなどで知り合いになる,というスタイルもゲームの空間を共有し,時によっては目的を同じくする,という意味で2番目に該当します.3番目に属する用いる言語のみが共通している人は,通常コミュニケーションは発生しませんが,何を言っているかは分かるため,自分に敵意があるかどうかを判別することが可能であり,敵意が無いと分かれば互いに交わることもなく,スルーすることができます.

ところがTwitterでは全世界共通のコミュニケーション基盤であるため,FlickrFacebookMy Space, Second Lifeのように突然自分の分かる言語以外で話しかけられたり,メッセージが来たりする可能性があります.そのことからSPAMメッセージを含め,慣れていない人だと自分の処理不可能な言語を前にパニックを起こす光景を多々見掛けます.Mailer Daemonを前に「何か英語のメールが届いた!」と相談された方は居られるのではないでしょうか.田舎のお爺さん,お婆さんが外国人を見てパニックに陥る光景と同じと言えるでしょう.慣れれば言葉が通じなくてもなんとかなるようになりますが,分からないうちは何だか怖いのです.

そのような状況でも積極的にコミュニケーションを取る人はさておき,知っている範囲,把握できる範囲,想定できる範囲,理解できる言語でのコミュニケーション環境でなければ不安だ,というユーザーは多数だと思われます.

面白さを分かる道のりが説明しにくく,体感してもらうには道のりが長い

Twitterを授業,という短時間で痛感したことは「面白さを短時間で説明しにくい」「面白さを分かって貰うためには時間が必要」ということがあります.

Twitterのヘビーユーザーに語らせると「フォローしている人が100を越えると面白さが変わる.1000を越えると世界観が変わる」とのことです.まだ私は100台なのですが,50前後から社会の話題の流れが見えてくるようになりました.それから100を越える当たりで様々な業種の人が混ざり始め,絡みが見え始め,コミュニケーションの深みが分かり始めます.

しかしこれが授業のたかだか10数分の実習ではフォローするのは近隣の5人程度であり,ただの「宛先に節操のないコミュニケーションツール」との認識から出ることはありません.ここから面白さの分かる50,100のフォロー数に達するにはなかなか根気の要る作業になります.前述したようにコミュニケーションについては携帯電話で満足しているケースが殆どなので,そこからコミュニケーションの輪を拡げるための行動と,他に面白いことについて行動することを比較してしまうと,後者に流れてしまうようです.例えばニコニコ動画YouTubeにアクセスする方がTwitterでフォローを増やすよりも彼らには遙かに楽しいわけです.

対面できる友人から拡げる

既に既存のサービス上でのコミュニケーションを取るのが忙しい彼らをTwitterに振り向かせるには,ニュースのような単一方向のアプローチよりも,まずは対面ベースで面白さを伝える人の存在が必要になってくると考えます.

先に述べたnagano_haruさんのTwitterを楽しむ10の方法(初心者ver)では,

(3)知人・友人は誘わない。
あえて、誘わない。mixi(ミクシー)とはちがう。

とありますが,大抵の不特定多数と繋がるWEBサービスにおいては,ある程度自立した社会人とは違い,周りの対面で知っている友人からスタートさせるのが抵抗が無いようです.まずは知り合い同士で雑談をし,知り合いの輪に物足りなさを感じたら知らない人とのリンクを求め,フォロー数を増やしていくというのが周りに居る学生の傾向です.

Twitterを若年層に流行らせるにはどうすれば良いか?

総じてTwitterアメリカ同様,大人向けのサービスなのではないでしょうか.Twitterを使う学生を見てみても,周りの人が多く利用しているので使っていたり,ゲームなどである程度上記の文化を飲み込める人が積極的に利用しているようです.

日本におけるTwitterの一般化を目指すとしたら,以下の項目が挙がると考えます.

  • 日本語・カタカナ語ベースのTwitter用語,インターフェースへの変更
  • IDではなく,ニックネームベースのやり取り
  • mixiのようにある程度日本語で閉じたサービス環境
  • 未知なる人と繋がる意欲喚起
    • 若年層の近くでTwitterの良さをオンライン,オフラインで広める人の存在

この中のいくつかを採用するだけでも,ユーザー層は広がるのでは,と思います.
まぁ,1番目以外,2番目は辛うじてwrapperを噛ませば良いかも知れませんが,3番目は最早Twitter「みたいなもの」であり,Twitterではないのでしょうけどね.

6月24日23時更新
Twitterの男女比については全世界のtwitter男女比で言及されています.男女比はデータが分散しているのでなかなかまとめるのが大変なんですよね.