一人歩きする言葉,「バカと暇人」

読了後,感想をまとめようとしているうちに暫く空いてしまいました.
その間,「男の子牧場」が産まれては消え,梅田望夫氏が一部で叩かれ,特にはてな界隈で「バカと暇人」が一種の流行語になっているようです.余りにインパクトがあることから,言葉が一人歩きしているように見えます.

「バカと暇人」

本のタイトルを見た瞬間,はてぶで炎上するんだろうな,と思ったのですが,
やっぱり案の定,日経BPでの紹介記事には300近くがブックマークされ,コメント欄は炎上気味.
そしてやっぱり炎上させている人は本を読むことなく,ほぼタイトルだけで反応しているようです.

著者はアメーバニュースの責任者の方だそうです.
ニュースサイト運営を経てコメントやメール,電話などによってWEB2.0的にフィードバックされた読者の声を通し感じ,考えてきたインターネットで発言することの意味とリスク,あしらい方が纏められています.
この本ではインターネットを使うユーザーを「賢い人」「普通の人」「バカ」「暇人」などと分類しています.著内での「バカと暇人」の定義としては当人の利害にほぼ影響が無いにも関わらず,気に入らない人・気に入らない内容に食ってかかる人,炎上に参加する人などが挙げられています.

インターネットでの発言は責任とリスクがあることを伝えた上で,過度な「バカと暇人」の攻撃とそれを気にしすぎる姿勢は日本のインターネットをつまらなくする危険がある,と述べています.その上で,インターネットに過度な期待を抱かないように,「バカと暇人」がやってきてもスルーできる力を身につけるように,というのが著者からのメッセージの一つです.

WEBでの自己表現

ブログ大国などと呼ばれる日本ですが,その内容は百花繚乱.内容のレベルもピンからキリ.近況報告のような内々のものから,何かメッセージ性のあるもの,自己表現,メモ,芸能人ブログのように知名度を上げるための戦略の一環,GR BLOGのような販売戦略まで様々です.多くの場合においてその人の思想や主張を表現するものとしてブログはある位置づけを持っているように思います.コミュニティに寄っては名刺的な役割を担う場合もあります.
著内では利益に関わらないブログは「賢い人は書かない」としてありますが,「賢い人はうまくブログを利用する」というのが私の見解です.

twitterのfollowerの方で,WEBデザイナーの方が居られるのですが,twitterアカウントを名刺に記入されたところ顧客にドン引きされた,という話をされていました.自分を戦略的に売り出す,出すべきところで出す,そのためのインターネットというツールの使い方というのが重要になってきていると考えます.

誰に読んで貰うことを想定している本なのか

最初から最後までこの疑問が頭をもたげました.そもそも「バカと暇人」は読まないでしょう.インターネットに長く居る人には感覚的に分かっている,あるいは考えてみれば当たり前のことが述べられています.インターネットコミュニケーションに対して疑問を抱いている人,インターネットの利用歴が浅い人,「インターネットに過度な期待を抱いている」とされる会社の上役だろうかとも考えましたが,ある程度の知識を前提としている節もあり,そのまま彼らに読ませるのは難しいように思います.
そもそも読んで貰うことよりも,インターネットでタイトルを元に「バカと暇人」に話題にされることが目的なのかも知れない,そう思う今日この頃です.本の発刊自体が広報のための「釣り」だったのではないかと.

日本のインターネット(WEB)はそんなに酷いのか

梅田望夫氏の記事がここのところ話題になっています.この本の話題に振れて居ますが,取り敢えず氏は最後までこの本を読むのが良いと思います.
日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く(前編)
Web、はてな、将棋への思い 梅田望夫さんに聞く(後編)

英語圏のウェブは高尚?

そういう意味で、ぼくが将棋に魅せられるというのも、ものすごく優れた人たちが徹底的に切磋琢磨するプロフェッショナルな世界に惹かれるから。そういうところでやってる人がものすごく努力して至高の世界に行く。そういう中で最高峰の世界をみせてくれるじゃない。そういうのに惹かれるから。

 英語圏ネット空間は地に着いてそういうところがありますからね。英語圏の空間というのは、学術論文が全部あるというところも含めて、知に関する最高峰の人たちが知をオープン化しているという現実もあるし。途上国援助みたいな文脈で教育コンテンツの充実みたいなのも圧倒的だし。頑張ってプロになって生計を立てるための、学習の高速道路みたいなのもあれば、登竜門を用意する会社もあったり。そういうことが次々起きているわけです。

 SNSの使われ方も全然違うし。もっと人生にとって必要なインフラみたいなものになってるわけ。

日本語圏WEB v.s. 英語圏WEB,という対比自体が意味をなさないものだと思います.
ここで述べられているのはむしろ日本語 v.s. 英語でしょう.英語の方がグローバルスタンダードなので仕方がないことです.学術にしてみても日本で完結しても学生の卒業にしかならないことは自明です.その学術のスタンダードになるためには世界で発表することが必要であり,そのためには英語で発表することが必要です.英語圏のネット空間が最高峰,ではなく最高峰を目指すためには英語でなくてはならない現状があります.世界の人々が自分たちの論文を英語で出してくれている以上,英語圏WEBに最高峰が集約されるのは仕方がないことです.こうした現状を鑑みずに日本語圏WEBは残念,というのは違うでしょう,と私は考えます.

英語圏にもバカと暇人は集う

英語圏のWEBも残念なものは多いです.数年前のSecond Lifeだってエロと広告しかありませんでしたし,You Tubeだって光と影があります.中国には2ちゃんねるのような百度掲示板があります.WEBだけでなく,メールを見てみても出会いとEDと学位は様々な言語で様々な国から届きます.結局のところ,人間たるもの暇な時に起こす行動はさして変わらないのではないかと思います.変わるとすれば常時接続環境普及率くらいではないでしょうか.

日本のWEBサービスも頑張っている

日本のWEBサービスも頑張っているんですよ,と「ウェブ国産力」を参考文献として出させていただきます.
憂うのは褒めるより簡単であり,日本の伝統芸能です.


そう言えば「男の子牧場

大炎上が各地で見られ,ITmedia記事,各地で亜種が作られ,牧場メーカーまで登場し,閉鎖した男の子牧場.傍目から見るとサイバーエージェントが「やっちゃった感」に溢れています.少し考えれば炎上は間違いない企画でしたが,あれは何だったのでしょう.
サイバーエージェントはアメーバを運営し,アメーバニュースの編集責任者がこの本の著者であり,炎上をネタにこの本を書いた本人なのだから,計算の上だっとのではと思います.少なくともネット上では瞬時に牧場の噂は広がった.サイバーエージェントの名前は広がったでしょうが,閉鎖までは予見していたのでしょうか.それとも著者は全く関係なかったのでしょうか.あるいは第二弾の新書に向けての布石なのか.今となっては分かりませんが...

最後に

どうにも「ウェブはバカと暇人のもの」というこの本のタイトルはインパクトが強すぎるようで,梅田氏の件に関しても日本のWEBはバカと暇人の集合体だという論調が見受けられて残念です.取り敢えずこの論戦に参戦する方々は冷静にこの本を読まれるのが良いと思います.「バカと暇人」の意味合いから生じる温度差が発生しているように思えてなりません.

最後になりましたが必ずしも著者は「バカと暇人」が嫌いではないのだろうな,と感じることをお伝えしなければならないでしょう.文章のここそこに愛を感じるのもそうですが,著者のバックグラウンド的に「バカと暇人」はアメーバニュースのPVを支え,収益に繋がっているでしょうから嫌いなはずがないと思うのです.