IETF ALTO WGとP4P

IETFに参加していると純粋な学術とは違う側面として、ビジネスパーソンがちらほら居たり、利権・覇権争いが垣間見えることが挙げられます。それ故に技術的に面白くても人が居ない時間枠があったり、お金になりそうなネタだと例え新興であっても異様に混んでいたりします。顔ぶれも分かり始めると面白く、妙にISP関係者が多いな、とかベンダーが多いな、とか思うようになります。

今回妙に盛況だなぁ、と感じたのがALTO WGです。
Requirementsを読むとALTOの略はApplication-Layer Traffic Optimizationであり、その目的は「ファイル交換、リアルタイムコミュニケーション、リアルタイムストリーミングなどの用途で増加し続けるP2Pストリーミングについて、アプリケーションがノード選択する際のよりよい指針を提供するためのメカニズム提供」だそうです。
狙いとしては

  • ユーザー視点から見た通信の効率化
  • オペレータ視点から見た不要なP2Pトラフィックの最適化
が挙げられるそうです。

P2Pについて考えてみると不思議な話で「より良いノード選択の指針提供」と言われた段階でMesh型通信が前提のように聞こえます。主流はメッシュ型通信ではあるものの、Tree型、Multiple-Tree型、Hybrid型なども存在するので違和感のあるところです。
そもそもP2Pは草の根で進化してきたものであり、全ての振る舞いはファイル交換やストリーミングなど各目的に特化したアプリケーション次第であり、用途や内容、品質などによって"よりよい"条件はコロコロ変わるものです。そもそもアプリケーションレイヤで完結するので標準化なんてする必要あるの?という疑問を悶々と抱きながら聞いていました。コンテンツのフローを変えたければ個々のアプリケーションをアップデートして配布すれば良い話ですからね。

IETFに限らずですが、あちこちのWGで見られる現象として「最適化(optimization)」という言葉に対する炎上があります。何を持って最適とするのか、という話です。ALTOの具体的な目標として「P2Pにおける最適なノード選択」というのがあったのですが、やはり問題になったようで"best"から"better"へと変更されていました。しかしその悶々とした感じは何名かに伝わったようでRequirementsに対する質疑も長時間に渡りました。

しかし個人的にこの悶々とした感じが払拭されたのが"P4P"の話題になったときでした。P4PとはP2PアプリケーションについてISPがネットワーク網の情報を与えたり、ISP間で協調することによって最適なP2P通信を達成するための技術です。確かにISP間の協調が必要なP4Pであれば標準化も必要ですね。全体の質疑も前向きなものがグンと増えました。何だ、ALTO WGってP4PのWGなのか、と。Requirementsを改めて見るとAppendixにひっそりと


Laird Popkin and Y. Richard Yang are grateful to the many contributions made by the members of the P4P working group and Yale Laboratory of Networked Systems. The P4P working group is hosted by DCIA.
とありました。IETFのような利権が絡む団体でなければP4P WGとする方が分かりやすいんじゃないかとすら思いました。

実装が重要視されるIETFですが、Comcastを中心とした実ネットワーク上でのテストも7月に行われ、パフォーマンス面での優位性も確認できたとのことです。P4Pに興味のある方はこのプレゼン資料http://www.ietf.org/proceedings/08nov/slides/alto-7.pdfは面白いと思います。

議論を見ているとComcastcisco、Yele Univ.辺りが非常に熱心ですね。ベンダー、ISPの姿もチラホラ。新しいサービスや機器の臭いを感じたのかも知れません。P2P全盛の中国ISPの姿も多く見掛けました。やたらと全身からハッカー臭のする人が話しているなぁ、と思っていたらBitTorrentの方でした。草の根的イメージの強いP2Pにおいて、IETFに参加する人が出てくるとは驚きでした。
もう一つ意外だったのは日本人の顔ぶれが少なかったことでしょうか。単純に裏のWGに出ていただけなのかも知れませんが、ざっと見た感じでは少ないように思いました。日本だと社会的、特にマスコミ的に「P2Pは悪の温床」というイメージが漠然とあるのでコストを裂きにくい土壌があるのかも知れない、と勘ぐってみたり。いくらオペレーションコストが下がり、有用なP2Pアプリが出てきたとしても、それを正面からサポートするとなると大衆紙に何を書かれるか分かったものじゃありませんしね。
P4Pでgoogle日本語検索すると「検索連動型広告(Pay for Performance)」の方が優勢ですからねぇ。国内のP4Pはどちらがより白熱するのかは不明ですが、世界的には熱い分野のようです。
全然関係ないですけどある日本のインターネットオペレーションの権威の先生が、「最近学生が俺の目の前でIPを知的財産権の意味で使う奴が居る(笑)」と話していましたっけ。