IETF PPSPとリアルタイムP2Pストリーミング

現在IETFにおいてWG化を進めている団体としてPPSPがあります。P2Pストリーミングの技術標準化を行おうとしています。主に中心となっているメンツを見ると中国勢がずらりと並び、非常に興味深いです。

日本でP2PストリーミングというとwinnyBittorrentのようなファイル共有と異なり、あまりイメージしにくいですが、中国ではP2Pストリーミング天国のようです。
2007年12月に発表されたA Measurement Study of a Large-Scale P2P IPTV SystemにはP2Pストリーミングの一つのサービスであるPPLiveでの計測結果が報告されています。これによると2007年2月の時点でPPLiveは320チャンネル以上を提供し、平均して毎日2,600,000アクセスがあるとのことです。また、最も人気のあるチャンネルでは一日に55,000アクセス以上を計上し、ピーク時には15,000以上のアクセスを記録するということです。人口の違いこそあれ、恐ろしいアクセス量です。彼らが全て500Kbps以上で通信するのですから、何とかしたい気持ちはよく分かります。ちなみにそれほどの人数を魅了するコンテンツは・・・まぁ、中国語が分からずとも見れば分かります。。。

IETFという標準化団体において彼らが何をしたいのか、という話に移りましょう。彼らの多くは中国のISPです。彼らに寄るとPPLiveを始め、中国で流行しているP2Pストリーミングサービスで用いられているアプリケーションの形態は似ている、とのことです。似ているのであれば標準化してしまおう、なんとかトラフィックを圧迫しすぎないインテリジェントな枠組みを提供しよう、という趣旨のようです。

今後どうなるかは分かりませんが、彼らの動きとしてRTP/RTCPやTCPといった既存のトランスポート層を捨て、P2Pストリーミングに特化したトランスポート層を作ろうとしているのも特徴的です。長年リアルタイムストリーミングで利用されてきたRTP/RTCPですが、1対多環境においてRTPのtimestampやSyn情報が意味をなしていないから、というのが彼らの主張です。
また、P2Pにおけるシグナリング関係を中心としたP2PSIPとの違いとして、リアルタイム性の高いストリーミングを対象としているのが違う点だ、と主張しています。

ここで疑問なのは純然たるP2Pは標準化すべきかどうなのか、という点にあります。以前のエントリで書いたようなP4PではISPからの情報を扇がなくてはならないため、標準化すべき点は多くあります。PPSPの場合、特にP4P的な要素は見当たらない、純P2Pです。純P2Pは全てアプリケーションの配布に寄って構成されるものであり、その成長やトラフィック如何は各アプリケーションに寄って左右されるものです。つまり高品質な映像を享受するためであれ、スケーラビリティを高めるためにインテリジェントなノード構成をするのであれ、それはアプリケーション次第であり、切磋琢磨する競争ポイントだと思います。そこにこれが標準だ、と乗り込んで行って良い物かどうかは疑問の余地があります。

また、IETFの会場では「インセンティブは何?」ということも挙げられていました。例えばP4Pの場合、ISPやベンダー各社にとってお金の臭いがするわけですが、PPSPの場合は明確ではありません。ISPのコストが下がる、と言っていますがまだ説得力には欠けますし、そもそも中国のトラフィック事情についての情報共有が不十分だと感じました。前述したようなトラフィック事情から見えてくるインセンティブがあると思うため、「中国のP2Pストリーミング事情をもっと共有していかないと背景がどうで、何が問題かの意識共有が難しいのでは?情報提供して欲しい!」と発言しておきましたがどうなるのやら。

私はP2Pストリーミングの土壌としての中国に非常に興味を抱いているので、何か面白い情報はないかな、最新情報が欲しいな、という思いを抱きつつ、PPSPの動きを見ています。